- ランニングで痛みが出たとき、まず何を確認すべきか― 原因を決めつけないための「チェックの優先順位」
- 導入
- ランニング障害とは?
- 痛みが出たときに意識したい「考え方の軸」
- 軽い不調が見落とされやすい理由
- 頻度と好発部位:まず「珍しくない」と知る
- 種目で変わる障害の特徴(ロード/ウルトラ/トレイル)
- 判断の軸①:既往(過去の障害)
- 判断の軸②:負荷変化(特に単一セッション)
- 生体力学的メカニズム:なぜ「負荷」が問題になるのか
- 衝撃負荷と炎症反応
- 前額面(左右)・水平面(回旋)が重要な理由
- 実際に意味のある介入①:筋力強化・コンディショニング
- 実際に意味のある介入②:ゲイトリトレーニング(ケイデンス)
- フットウェア:負荷を「調整」するための選択肢
- 今日からできる3つの行動
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
- noteの紹介
- 免責
- プロフィール欄
- 参考文献(一般化)
ランニングで痛みが出たとき、まず何を確認すべきか― 原因を決めつけないための「チェックの優先順位」
導入
走っていると、ある日ふと痛みが出る。
休むべきか、続けていいのか。
フォームなのか、練習量なのか。それとも靴なのか。
このとき多くのランナーが戸惑うのは、
「何から考えればいいのか分からない」 という点です。
背景にあるのは、
ランニングによる痛みや不調が、単一の原因で説明できないことが多いという現実です。
情報を調べるほど、
「原因はこれだ」「これを直せばいい」
といった言葉が目に入り、かえって混乱してしまうことも少なくありません。
この記事では、治療法を網羅することよりも、
痛みが出たときに判断を誤りにくくするための”考える順番”を整理します。
ランニング障害とは?
「ランニング障害」とは、
走ることに関連して生じる痛みや不調の総称を指します。
研究では「ランニング関連傷害(Running-related injury: RRI)」という用語が使われますが、この言葉は研究ごとに指している範囲が必ずしも同じではありません。
▼表:研究で用いられる「ランニング関連傷害」の定義例
| 定義の範囲 | 説明 |
| 痛みの有無のみ | 痛みがあるだけで傷害とみなす |
| トレーニング中断 | 練習を休止・中断した場合に限定 |
| 医療機関受診 | 医療機関を受診した場合のみカウント |
研究によって「どこまでをランニング障害とするか」の前提が異なるため、単純な比較が難しい
そのため本記事では、
病名を決め打ちしたり、単一の原因を探したりすることよりも、
「痛みが出たとき、どの順番で整理すると判断が安定しやすいか」
という視点を中心に解説します。
痛みが出たときに意識したい「考え方の軸」
この章のポイント:原因を一つに決めつけず、既往→負荷変化→生体力学という順番で整理すると判断がぶれにくい
ランニング障害を総論として整理すると、
次の3点を意識しておくことが、判断の助けになります。
- ランニング障害は、定義や前提条件によって見え方が変わるため、
最初から「原因」を一つに決めつけないほうが安全 - 痛みが出た直後ほど、
フォーム・接地・靴を原因として考える前に、
①既往(過去の障害) と ②直近の負荷変化(特に単一セッションの急増)
を確認するほうが、判断がぶれにくい - 生体力学的要因や動作の特徴は重要な「候補」だが、
最初に扱うと過剰な修正につながりやすいため、
扱う順番を意識することが大切
このあと、
なぜその順番が合理的なのか、
そして実際に何をどう確認・調整していけばよいのかを、
順に整理していきます。
軽い不調が見落とされやすい理由
従来の定義では、
- 軽度の痛み
- 走り続けられてしまう違和感
といった軽度な不調(軽い痛み・違和感の段階)が拾われにくいことが指摘されています。
しかし、こうした軽い不調が、後の重度障害に先行する可能性が示唆される、という報告もあります。
つまり、
「休むほどではない痛み」も、身体からの情報として扱う視点が必要です。
頻度と好発部位:まず「珍しくない」と知る
この章のポイント:ランニング障害の年間発生率は全体で40%を超え、膝から下に集中する。焦らず判断するための背景情報として把握する。
ランニング関連筋骨格系障害の年間発生率・有病率は、全体として40〜50%以上と報告するレビューが複数あります。
好発部位は、
- 膝
- 下腿
- 足関節・足部
など、膝から下に集中する傾向が示されています。
頻度の情報は、原因当てに使うというより、
焦らずに判断できるようにするための背景情報として役に立ちます。
種目で変わる障害の特徴(ロード/ウルトラ/トレイル)
代表的な傷病名の割合
ランニング関連の代表的な傷病名として、次の割合が報告されているレビューがあります。
▼表:代表的なランニング障害の有病率
| 傷病名 | 有病率 | 説明 |
| 膝蓋大腿疼痛症候群(PFPS) | 16.7% | 膝前面の痛み |
| 内側脛骨ストレス症候群(MTSS) | 9.1% | シンスプリント |
| 足底筋膜炎 | 7.9% | 足底の痛み |
| アキレス腱障害 | 6.6% | アキレス腱周囲の痛み |
頻度が高い=あなたの診断ではないが、よく起こるパターンを知ると焦らず整理できる
また、非ウルトラマラソンランナーでは、膝蓋大腿疼痛症候群(PFPS)が有病率として最も高く、発生率ではアキレス腱障害が上位と報告される、という情報もあります。
「頻度が高い=あなたの診断が決まる」ではないですが、よく起こるパターンを知っておくと焦らずに整理できます。
ウルトラマラソンの特性
ウルトラでは、
- 長時間
- 累積疲労
- 回復不足
が重なり、足関節周囲のトラブルが起こりやすい、と報告されることがあります。
トレイルランニングの特性
トレイルランナーでは、最も頻繁に傷害を受ける部位は膝で、次いで足首とアキレス腱と報告されています。
また別の報告では、足首の怪我が最も多く、ロードとは異なる傷害パターンを示すとされています。
不均一な地形(不整地)は、足関節に急激で方向性の異なる負荷を生じやすい、という背景があります。
判断の軸①:既往(過去の障害)
この章のポイント:過去の障害歴は将来のリスク予測において強力な要因。いつ・どこで・どの部位かを短く振り返る
過去の障害は、将来の障害発生における強力な予測因子のひとつとされています。
走行距離で層別化した報告では、
- 長距離ランナー:過去のランニング障害
- 短距離ランナー::ランニング以外の既往障害
が、それぞれ強いリスク要因になり得ると示されています。
既往を振り返るときのチェック項目
既往を振り返るときは、次の3点を短く押さえるだけで十分です。
- いつ(時期)
- どの環境・種目(ロード/ウルトラ/トレイルなど)
- どの部位(同じ場所か、移動するか)
既往は「今の痛みの答え」ではありませんが、見立てのブレを減らす土台になります。
判断の軸②:負荷変化(特に単一セッション)
この章のポイント:週合計より「1回の練習で何がどれだけ増えたか」が重要。過去30日の最長距離に対し10%以上の増加は要注意
多くの研究で、トレーニングエラー(負荷設定の問題)が主要因として挙げられています。
ここで重要なのは、週合計よりも、
「1回の練習で何がどれだけ増えたか」です。
単一セッション距離の増加リスク
単一セッション距離が「過去30日間の最長距離」に対して
- 10%以上増えた場合:障害リスクが上昇する可能性が示されています
- 特に30%以上の急増では、段階的な増加と比較して、障害発生率が約1.5〜2.3倍に高まったとする報告もあります
つまり、10%は「注意が必要な増加」、30%は「短期的リスクが大きく上がりうる急増」と捉えると、臨床的にも実用的です。
▼図:単一セッション距離増加と障害リスクの関係
過去30日の最長距離:20km の場合
22km(+10%) → 注意が必要な増加
26km(+30%) → リスクが大きく上がる急増
距離だけでなく、坂・下り・路面・トレイル比率・疲労なども負荷を増やす要因となる
実用的な負荷管理の考え方
「過去30日で最長距離」を一度確認し、その距離をひとつの目安として、次のロング走を組むのがおすすめです。
たとえば、過去30日の最長が20kmなら、次回は22km(+10%)程度から始め、身体の反応を見ながら段階的に戻していく、という考え方です。
*ただし、負荷は「距離」だけで決まりません。坂・下り・路面・トレイル比率・疲労などでも増えるため、距離だけで「安全」とは判断しないのがポイントです。
一方で、短期:長期のトレーニング負荷比率をみた**週間負荷比率(Acute:Chronic Workload Ratio: ACWR)や週対週比率(前週比)**などの指標は、リスク増加との関連が一貫しないとする報告もあります。
実用的には、「どの回で・何が増えたか」を具体的に振り返れる形にするのが有効です。
生体力学的メカニズム:なぜ「負荷」が問題になるのか
この章のポイント:ランニング障害の多くは、小さな力が何千回も反復して加わる「過使用」によって生じる
ランニング障害の多くは、
一度の転倒や強打といった大きな外傷ではなく、
比較的小さな力が、何千回・何万回と反復して加わる
「過使用(overuse)」によって生じると考えられています。
ランニングでは、
接地のたびに体重の数倍に相当する力が、繰り返し身体に加わります。
このとき、
- 接地時の衝撃がやや大きい
- 左右方向や回旋方向のブレが加わる
- 距離や強度の増え方が急だった
といった要素が重なると、
組織の修復が負荷に追いつかず、炎症や痛みとして表に出やすくなります。
衝撃負荷と炎症反応
ランニングでは、接地時に生じる一過性の衝撃(インパクト)が、
炎症反応や組織損傷に関与する重要な要因になり得る、と報告されています。
衝撃そのものが問題というよりも、
「どの程度の衝撃が、どの頻度で、どの期間続いたか」
という累積の視点が重要になります。
前額面(左右)・水平面(回旋)が重要な理由
近年のレビューでは、
- 股関節内転(膝が内側に入る動き)
- 膝関節内旋(内側へのねじれ)
といった、左右方向(前額面)や回旋方向(水平面)の運動が、
障害リスクとより強く関連する可能性が示されています。
これらの動きが大きくなると、
膝・下腿・足部に、局所的で非効率なストレスが集中しやすくなります。
▼左右・回旋方向の動きと負荷集中
正常な動き → 負荷が分散
↓
股関節内転・膝内旋が大きい → 膝・下腿・足部に負荷集中
↓
局所的ストレス増大 → 痛みのリスク上昇
左右や回旋のブレが増えると、特定部位への負荷が偏りやすくなる
つまり、
痛みが出たときに「フォームが悪い」で一括りにするよりも、
- 衝撃が強くなっていないか
- 左右や回旋方向のブレが増えていないか
という視点に分解したほうが、
次に取るべき調整(負荷・ケイデンス・筋機能)が見えやすくなります。
実際に意味のある介入①:筋力強化・コンディショニング
この章のポイント:中臀筋を中心とした股関節周囲筋群の機能向上が、動的安定性を高め負荷集中を抑える可能性がある
特に重要なのが、中臀筋を中心とした股関節周囲筋群(外旋・外転)の機能向上です。
中臀筋を中心とした股関節周囲筋群は、
- 動的な下肢アライメントを安定させる
- ランニング中の膝や下腿への不規則な負荷集中を抑える
といった役割を担う可能性が示されています。
ここで狙うのは、見た目の筋力アップではなく、
衝撃や横方向のブレをコントロールできる状態をつくることです。
その意味で、この介入は単なる「筋トレ」ではなく、
制御能力(コントロール)を底上げするコンディショニングとして位置づけると理解しやすくなります。
何をやる?(代表的な3つ)
▼表:股関節周囲筋群の代表的エクササイズ
| エクササイズ名 | 目安回数・時間 | 注意点 |
| クラムシェル | 左右10〜15回 × 2セット | 骨盤が回らない範囲で |
| サイドプランク | 左右20〜30秒 × 2セット | 体幹が崩れない範囲で |
| モンスターウォーク(サイドウォーク) | 10歩 × 2往復 | 膝が内に入らない範囲で(ミニバンド使用) |
フォームが崩れない範囲で行うことを最優先する
頻度の目安
- 週2〜3回
- 1回5〜10分程度
まずは「続けられる量」を優先することが、結果的に一番効果的です。
股関節周囲筋群のトレーニングでよくあるつまずきポイント
- クラムシェル:骨盤が後ろに倒れてしまい、股関節が動いていない
- サイドプランク:体幹が崩れ、腰が落ちる
- モンスターウォーク:膝が内側に入る/つま先が外を向きすぎる
いずれも「効かせよう」とするより、崩れない範囲で丁寧に行うことを意識してみてください。
実際に意味のある介入②:ゲイトリトレーニング(ケイデンス)
この章のポイント:ケイデンス(ピッチ)を5〜10%増やすと、接地時の衝撃を分散させやすくなる可能性がある
ケイデンス(ピッチ)を増やすゲイトリトレーニングは、
ステップレートを高めることで、接地時に身体へ入る衝撃を分散させやすくする介入です。
研究では、ケイデンス(ピッチ)を増加させることで
平均垂直負荷率(Average Vertical Loading Rate: AVLR)が低下することが示されています。
また、ランニングケイデンス(ピッチ)を5〜10%程度増加させると、
- 垂直床反力や負荷率の低下
- ストライド長の短縮
- 下肢アライメントの改善
といった、生体力学的に一貫した適応が起こりやすい、という報告があります。
さらに、ケイデンス(ピッチ)を5〜10%増加させ、リアルタイムのバイオフィードバックを併用した条件では、接地時の衝撃荷重が大きく低下したとする報告もあります。
取り入れ方のポイント
ケイデンス(ピッチ)調整は、「大きく変える」よりも「小さく試す」ことが重要です。
- いきなり10%増やすのではなく、まずは5%程度から
- 痛みや違和感が増える場合は、無理に続けず元に戻す
という進め方が、安全性の面でも現実的です。
ここでのポイントは、
「走り方を正す」ことではなく、
同じ距離を、より穏やかな衝撃で走れる方向へ調整する
という位置づけで捉えると、取り入れやすくなります。
フットウェア:負荷を「調整」するための選択肢
この章のポイント:シューズは原因ではなく、負荷のかかり方に影響する調整要素として扱う
シューズは”原因そのもの”というより、負荷のかかり方に影響する要素として扱うのが現実的です。
研究では、たとえば次のように報告されています。
▼表:フットウェア特性と生体力学的影響
| シューズ特性 | 報告されている影響 |
| 曲げ剛性(適度な範囲) | パフォーマンス向上の可能性 |
| 柔らかい/厚いミッドソール | 衝撃力・負荷率の低減 |
| ミニマリストシューズ | ランニングエコノミー改善・アキレス腱剛性向上一方で中足趾節関節・足関節への負荷増大の可能性 |
適切なフットウェア選択が非急性外傷(慢性的な負荷によるダメージ)の予防策となり得る
つまり、シューズは「答え」ではなく、
既往と負荷変化を押さえたあとに、リスクを下げるための調整要素として検討するのが順番として安全です。
今日からできる3つの行動
この章のポイント:既往の言語化→負荷変化の確認→介入の試行、という順で小さく進める
1. 既往を短く言語化する
「いつ・どの環境で・どの部位だったか」を1分で書き出します。
答えを出すためではなく、判断のブレを減らすための作業です。
2. 直近30日の”負荷の増え方”を確認する
週合計ではなく、
「どの1回で、距離・坂・スピード・路面・トレイル比率が増えたか」
を振り返ります。
特に、単一セッションで過去30日比10%以上の増加がなかったかを確認します。
3. 介入は”衝撃 → 横ブレ”の順で小さく試す
まずはケイデンス(ピッチ)を約5%程度、短時間で試し、
必要に応じて、中臀筋を中心とした股関節周囲筋群の機能向上を検討します。
フォームや靴は、結論ではなく調整の選択肢として扱います。
よくある質問(FAQ)
Q1. ランニング障害は「走り方が悪い」から起きますか?
「走り方(動き方)」だけが原因、とは言い切れないのが現実です。
研究の中でも、動作所見との関連が示唆される領域はある一方で、生体力学的リスク要因(Biomechanical Risk Factors: BRFs)は研究間で結果が揺れる/限定的、といった整理が含まれます。
痛みが出た直後に「フォームが悪い」と結論づけてしまうと、過剰に直して別の場所が痛くなることもあります。
総論としては、まず既往(過去の障害)と負荷変化を確認し、そのうえで「動作は候補として扱う」ほうが判断が安定しやすい、という立て付けが現実的です。
Q2. 接地(踵接地など)を変えれば改善しますか?
踵接地のランナーが、非踵接地より傷害率が高いとする報告があります。
また、中足部接地が膝への負荷を減少させるという報告もあり、
「特定の部位への負荷分布」という観点では、接地パターンが影響し得る可能性はあります。
ただし、足部接地技術(FST)とランニング障害の関連性は、現時点では研究の質や一貫性の面で解釈には慎重さが求められる、という位置づけです。
もし接地を変えることを検討するなら、
- まず既往(過去の障害)や直近の負荷急増を整理したうえで、
- 負荷配分を変える**”選択肢の一つ”として試して、**
- 合わなければ戻せる形で進める
という順番が、安全性と再現性の面で過剰修正を避けやすい進め方です。
接地パターンは、どこに負荷が集まりやすいかを変える要素の一つとして位置づけておくと、判断がぶれにくくなります。
Q3. どの負荷の変化が危険ですか?
「週の合計距離」よりも、1回の練習での急な増加が引き金になり得る点が重要です。
単一セッションの距離が、過去30日の最長走行距離と比べて10%を超えて増加した場合、障害リスクが高まる可能性が示されています。
さらに、30%以上の大きな急増では、リスクがより高くなる傾向が報告されています。
思い当たる場合は、「フォームを直す」より先に、まずその増え方を整えるほうが、結果的に遠回りを減らしやすくなります。
Q4. 週間負荷比率を見れば安全管理できますか?
短期:長期のトレーニング負荷比率をみた週間負荷比率(Acute:Chronic Workload Ratio: ACWR)などの指標を用いた分析で、リスク増加との関連が確認されないとする報告があります。
数字は便利ですが、指数だけで安全管理できると考えすぎないほうがよい、という立ち位置です。
実用的には、
「どの回で何が増えたか(距離・坂・トレイル比率・疲労)」
を言葉で振り返れる形にするほうが、対策につながりやすいです。
Q5. トレイルやウルトラでは、何が違いますか?
ロードと同じ考え方で整理しようとして、うまくいかないことがあります。
トレイルでは有病率・発生率のばらつきが大きく、足首の怪我が多いという報告もあります。不均一な地形(不整地)が足関節捻挫リスクを高める、という指摘があります。
ウルトラでは足首領域の問題が起きやすい、という報告があります。
つまり、種目が変わると「負荷の入り方(衝撃や横方向のブレ)」が変わるため、フォームだけに寄せず、環境と負荷の見直しを早めに入れるほうが安全です。
Q6. 受診の目安はありますか?
一般論として、次のような状況では一度医療者や専門家に相談し、状況を整理しておくことが役に立ちます。
- 安静にしても痛みが強い/悪化している
- 腫れ・熱感・強い圧痛がある、または明らかな外傷(捻った・ぶつけた)がある
- 走り方を変える以前に、日常生活(歩行・階段)でも支障が出ている
- 同じ部位の痛みを繰り返す、または痛みの場所が移動して広がっていく
- 負荷を落としても改善が乏しい状態が続き、不安が強い
受診は「治療が必要かどうか」を判断するためだけでなく、
既往・直近の負荷変化・症状の経過を一緒に整理して、何を優先して調整すべきか(負荷/環境/動作)の見通しを立てる目的でも有効です。
まとめ
ランニング障害は、原因を焦って決めつけるべきではありません。
- 既往
- 負荷変化
- 生体力学的な理解(左右・回旋、衝撃)
を順番どおりに見ていくことで、過剰修正を避け、次の一手を合理的に選びやすくなります。
股関節周囲筋群の機能向上(中臀筋を中心に)や、ケイデンス(ピッチ)調整(5〜10%増)は、負荷のかかり方を変えるという意味で、総論として検討価値のある介入です。
シューズも同様に、「原因」ではなく「負荷の調整要素」として、順番を守って扱うのがポイントです。
*本記事は「ランニング障害シリーズ」の第1回です。
▶ 次回:「ランニング障害|総論② 歩行と走りの違い」
noteの紹介
note版では、今回の内容を「どう考えるかの判断のヒント」として整理しています。
→note記事リンク:ランニング障害|総論①「ランニング障害の全体像」痛みが出たとき: 走り方”だけ”で決めず、負荷→衝撃→横ブレの順に整える
* note=考え方の土台 → WP=確認の手順(実務編)として順に読むとスムーズです。
* WordPressは具体的な数値・判定基準を、noteは思考の枠組みを重視しています。
免責
*本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療の代替ではありません。
*内容は筆者個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。
プロフィール欄
飯村 剛史(Dr.イイムラ)
医学博博士/形成外科専門医
足のクリニック表参道 勤務医/ランニング外来担当
日本医科大学付属病院 非常勤講師
外反母趾などの足趾変形手術、足底筋膜炎、扁平足、ランニング障害など、足・下肢の診療に10年以上携わってきました。
臨床経験と2020年以降の医学エビデンスをもとに、”正確で再現性のある足・下肢の知識”をお届けします。
→各SNS・noteはこちら:lit.link/driimura
参考文献(一般化)
本記事は、2020年以降に発表された「ランニング障害総論」に関する研究知見(レビュー/前向き研究/介入研究等)を統合し、臨床的解釈として一般向けに再構成したものです。本文は作成時点(2025年12月)までの知見を中心にまとめています。
- ランニング関連傷害の疫学調査と発生率・有病率の把握に関するシステマティックレビュー
- 運動ベース予防プログラムの効果検証に関するメタ解析研究
- リアルタイムバイオフィードバック技術による傷害予防効果に関するシステマティックレビュー
- ランニング障害のリスク要因特定を目的としたアンブレラシステマティックレビュー
- 障害定義と調査手法の標準化に関するスコーピングレビュー
- 歩容再教育とケイデンス調整の生体力学的効果に関する介入研究とシステマティックレビュー
- フットウェア構造が生体力学および傷害に与える影響に関するシステマティックレビュー
- 負荷管理と急性負荷増加が傷害発生に与える影響に関する大規模前向きコホート研究
- 股関節筋力と傷害発生の関連性を調査した前向きコホート研究
- 足部接地パターンと傷害リスクの関連性に関するシステマティックレビュー
- トレイルランニング特有の傷害特性に関するシステマティックレビュー
- 傷害予防支援の現状と個別化アプローチに関するスコーピングレビュー
- 生体力学的リスク要因と傷害特異性に関するシステマティックレビュー
- 運動学的サブグループと傷害発生の関連性に関するスコーピングレビュー
- 短距離・長距離ランナーの使いすぎ傷害リスク要因に関するシステマティックレビュー
- 多因子的リスクプロファイルと傷害発生に関するアンブレラシステマティックレビュー
個々の論文名や著者名は割愛し、研究デザインの傾向と臨床判断に役立つ論点として一般化して示しました。

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