ランニング障害|動的アライメント編③「足部アライメント(回内・回外)」

  1. 過回内・過回外のリスク評価と介入の実践ガイド
  2. この記事で分かること
  3. 導入:足部アライメントは形だけでなく可動性の機能が大事
  4. 足部アライメント異常とランニング障害:疫学データが示すリスク
    1. 足部タイプ別のリスク倍率
    2. ランニング障害の発生分布
  5. 足部タイプの評価方法:舟状骨落下テストと足底姿勢指数
    1. 舟状骨落下テスト(Navicular Drop Test:NDT)
    2. 足底姿勢指数(Foot Posture Index:FPI)
    3. 静的評価の限界と動的評価の重要性
  6. ランニング中の足部変化:45分後の「過回内化」
    1. 45分後に生じる足部回内の増加
    2. 内在性足部筋の疲労
  7. 過回内・過回外のバイオメカニクス:なぜ障害につながるのか
    1. 過回内(過可動性)のメカニズム
      1. ① 機械的不安定性
      2. ② 代償的な筋活動増加
      3. ③ 運動連鎖への影響
    2. 過回外(低可動性)のメカニズム
      1. ① 衝撃吸収能力の低下
      2. ② 適応能力の低下
  8. 特定障害との関連:脛骨内側ストレス症候群と足底筋膜炎
    1. 脛骨内側ストレス症候群(シンスプリント)
    2. 足底筋膜炎(Plantar Fasciitis: PF)
  9. 歩容再訓練(ゲイトリトレーニング):エビデンスに基づく5つの手法
    1. 1. トゥイン走(足部進行角変更)
    2. 2. 圧力中心(Center of Pressure: COP)の外側化(COPシフト)
    3. 3. ケイデンス(ピッチ)増加
    4. 4. フォアフット着地への移行
    5. 5. 後方歩行トレーニング
  10. 装具療法の適応判断:二重密度構造の効果と限界
    1. 二重密度足底装具の効果
    2. 適応基準
    3. 限界と注意点
  11. 負荷管理の具体的基準:週40kmルールと距離増加率
    1. 週40kmルール
    2. 距離増加率の管理
    3. 心理的要因への対処
  12. 統合的評価フロー:静的評価→動的評価→介入→再評価
    1. 推奨される評価フロー
    2. 介入の優先順位
    3. 再評価のタイミング
  13. 優先行動の提示
  14. Q&A(FAQ)── よくある疑問と臨床判断のヒント
    1. Q1. 扁平足や回内足があるのですが、矯正が必要ですか?
    2. Q2. 高度回内の場合、すぐにインソールが必要ですか?
    3. Q3. ランニング中に足が痛くなるのは、インソールが合っていないからですか?
    4. Q4. 過回外(回外足)の場合、どのような対策が有効ですか?
  15. まとめ:静的と動的を統合した個別化アプローチの重要性
    1. 重要ポイント
    2. 臨床実践への含意
  16. noteの紹介
  17. 免責
  18. プロフィール
  19. 参考文献(一般化)

過回内・過回外のリスク評価と介入の実践ガイド


この記事で分かること

  • 過回内・過回外がランニング障害のリスクをどの程度高めるか
  • なぜ「中等度回内」は保護的因子なのか
  • 舟状骨落下テストと足底姿勢指数による評価方法
  • ランニング45分後に生じる足部変化とその対策
  • 足部アライメント異常とランニング障害の関連性
  • 歩容再訓練と装具療法の使い分け

導入:足部アライメントは形だけでなく可動性の機能が大事

ランニング外来でよく聞く訴えに、「回内足だから装具が必要と言われた」「ハイアーチで安定しているはずなのに痛い」「扁平足用のインソールを使ったら逆に痛くなった」というものがあります。

これらの背景には、足部アライメントの動的な機能を正しく理解できていないことがあります。

足部回内(Pronation)は着地時に足部が内側に傾きながら柔軟に衝撃を吸収する生理的機能であり、回外(Supination)は蹴り出し時に足部が外側に戻りながら剛性を高め、推進力を生み出す機能です。ランニング中の足部は、「回内→回外」という連続的な動きの流れを繰り返します。

問題は「回内・回外の形そのもの」ではなく、動的な機能にあります。

本記事では、足部アライメント異常がランニング障害にどうつながるか、エビデンスに基づく評価方法と介入戦略を解説します。

より深く理解したい方へ:
note記事では、判断の背景を思考整理の視点から解説しています。


足部アライメント異常とランニング障害:疫学データが示すリスク

過回内・過回外がランニング障害のリスクをどの程度高めるか、定量的なデータを整理します。

足部タイプ別のリスク倍率

▼ 足部タイプ別の障害発症リスク

足部タイプ 障害発症リスク
回内足 約3.3~3.6倍
回外足 約4.5~6.2倍
中等度回内 保護的(リスク約0.6倍)
高度回内 約3.3倍

*ニュートラル(中間位)を基準とした比較

初心者ランナー730名を1年間追跡した研究では、回内足と回外足の両方が独立した有意なリスク因子であることが確認されています。特に注目すべきは、中等度回内がリスク0.63倍という保護的効果を持つ点です。

ランニング障害の発生分布

ランニング関連筋骨格系損傷の有病率は44.6%、発生率は40.2%に達します。解剖学的部位別では以下の通りです。

▼ ランニング障害の解剖学的部位別発生率

部位 発生率
26.2%
足首 19.0%
下腿 16.6%
膝より下の部位合計 75.3%

最も発生率が高い病態は、アキレス腱障害(10.3%)、脛骨内側ストレス症候群(9.4%)、膝蓋大腿疼痛症候群(6.3%)です。足底筋膜炎の発生率は2.5%ですが、週40km超の走行で発症リスクが約6倍に増加します。


誤解の修正:
「回内足=必ず矯正すべき」という理解は誤りです。ランニングにおいて重要なのは、「軽度の回内は正常の範囲として受け入れるべきであり、過度な矯正は不要」という視点です。中等度回内は衝撃分散に寄与し、過度な矯正はかえってリスクを高める可能性があります。

チェックポイント:

  • 過回内・過回外のいずれもリスク因子だが、程度により保護的にもなる
  • 過去の受傷歴がある場合、リスクが約2.9倍に増加する
  • 週40km超の走行距離は足底筋膜炎のリスクを6倍に高める

足部タイプの評価方法:舟状骨落下テストと足底姿勢指数

自分の足部タイプを客観的に評価する具体的な手順と判定基準を示します。

舟状骨落下テスト(Navicular Drop Test:NDT)

舟状骨落下テストは、足部回内の程度を定量化する最も実用的な評価方法です。

測定手順:

  1. 座位で足を床につけ、舟状骨(足の内側アーチの頂点にある骨の突起)の位置を触診
  2. 舟状骨の最も突出した部分にマークをつける
  3. 床からマークまでの高さを測定(座位時)
  4. 立位で体重をかけた状態で再度高さを測定
  5. 座位時と立位時の高さの差を算出

▼ 舟状骨落下テストの判定基準

舟状骨落下距離 足部タイプ 評価
10mm以上 過回内(回内足) 過可動性
5~9mm 正常範囲 適度な可動性
4mm未満 過回外(回外足) 低可動性

足底姿勢指数(Foot Posture Index:FPI)

足底姿勢指数(FPI)は、足部全体の姿勢を多面的に評価する指標です。舟状骨の突出度、踵骨の角度、前足部の外転など、複数の視点から足部を観察します。

▼ 足底姿勢指数の判定基準

FPIスコア 足部タイプ
+6を超える 過回内傾向
0~+5 正常範囲
0未満 過回外傾向

静的評価の限界と動的評価の重要性

NDTやFPIは立位での構造(静的アライメント)を評価する方法です。これらは簡便で再現性が高い一方、走行中の動き(動的アライメント)を完全には反映できないという限界があります。

静的評価と動的評価の違い:

▼ 静的アライメント vs 動的アライメント

項目 静的アライメント 動的アライメント
評価対象 立位・座位での足部の形態(構造) ランニング中の足部の動き(運動パターン)
評価内容 「あなたの足はどんな形か?」 「あなたの足はどう動くか?」
具体例 扁平足、ハイアーチ 接地時の過回内、蹴り出し時の回外不足
評価方法 NDT、FPI ビデオ撮影、動作解析、経時的観察

重要なのは、静的アライメントと動的アライメントは必ずしも一致しないという点です。

  • 扁平足(静的に回内足)でも、走行中の過剰な回内が起きるとは限らない
  • ハイアーチ(静的に回外足)でも、走行中の回外が適切に起きない場合もある

さらに、ランニング開始45分後にFPIが悪化(過回内化)する傾向が確認されており、時間経過によっても動的アライメントは変化します(次章で詳述)。

実際に障害を引き起こすのは「構造」ではなく「動き」であるため、静的評価だけでは不十分です。理想的には、ランニング前・45分後・終了後の3点でFPIを再評価し、動的変化を確認することが推奨されます。


チェックポイント:

  • NDTは定量的で再現性が高い。
  • FPIは主観的要素があるが、多面的評価が可能。
  • 評価のタイミングはランニング前・45分後・終了後の3点が理想。
  • 静的評価で「正常」でも、走行中の動的変化を見逃す可能性がある。

ランニング中の足部変化:45分後の「過回内化」

ランニング時間の経過に伴う足部アライメントの変化と、その背景にあるメカニズムを解説します。

45分後に生じる足部回内の増加

健康なレクリエーションランナーを対象とした研究では、ランニング開始45分後に足部の過回内傾向(FPIおよびNDTの悪化)が有意に生じることが確認されています。一方、歩行では同様の変化は認められませんでした。

▼ ランニング中の足部アライメント経時変化

時間 右足の変化 左足の変化
開始時 正常範囲 正常範囲
30分後 有意な変化開始 変化なし
45分後 過回内傾向増加 有意な変化開始
60分後 著しい過回内傾向 著しい過回内傾向

*同様の変化は歩行では生じない(ランニング特有の現象)

内在性足部筋の疲労

この変化の主な原因は、内在性足部筋(足の裏にある小さな筋群)の疲労です。これらの筋は内側縦アーチを支える役割を担っていますが、ランニングの反復衝撃により疲労し、アーチの低下と過度な回内を誘発します。

歩行との違い:
歩行では同等の変化が認められなかったことから、この現象はランニング特有の高負荷による影響と考えられます。


誤解の修正:
「静的評価で正常範囲だから安心」という判断は不十分です。ランニング前に”正常”と評価された足部も、45分以降には過回内状態に移行し得るため、走行中の動的・経時的変化を考慮する必要があります。

判断材料:

  • 45分を目安に足部への過剰な負荷がないか確認。
  • 内在性足部筋のトレーニングで変化を軽減できる可能。
  • 長時間ランニング前後での評価が重要。
  • 「走り始めは大丈夫だけど、後半に足が痛くなる」という訴えの背景には、この動的変化が隠れている可能性がある。

過回内・過回外のバイオメカニクス:なぜ障害につながるのか

過回内・過回外それぞれが障害につながるメカニズムを、バイオメカニクスと神経筋制御の観点から整理します。

過回内(過可動性)のメカニズム

過回内は足部の柔軟性が過剰になり、以下のような連鎖的な問題を引き起こします。

① 機械的不安定性

  • 足部の過可動性により、立脚期の安定性が低下。
  • 静的片足立ちでの重心の揺れ(安定性指数)が増加。
  • 中足部の機械的不安定性が下肢全体に波及。

日常での気づき方:

  • 片足立ちでバランスが取りにくい。
  • ランニング中、着地時にグラつく感覚がある。
  • 10km以上走ると、足の内側アーチが「落ちた」感覚がある。

② 代償的な筋活動増加

回内足を持つランナーは、荷重応答期において以下の筋群の活動が有意に高くなります。

▼ 過回内で活動が増加する筋群

筋群 部位
前脛骨筋 すねの前側
腓腹筋 ふくらはぎ
内側広筋・外側広筋 太ももの前側
大腿直筋・大腿二頭筋 太もも
半腱様筋・中殿筋 お尻の筋肉

これは、足部の機械的不安定性を補うために、神経筋系が下肢全体を安定させようとする代償的戦略と解釈されます。

日常での気づき方:

  • ランニング後にすねの内側や膝の内側に痛みが出やすい。
  • ふくらはぎの疲労感が強い。
  • 太ももの前側が張りやすい。

③ 運動連鎖への影響

  • 後足部の外反(回内の一部)と脛骨の内旋が連動。
  • 骨盤の傾き(Pelvic Drop)や股関節の内旋角度増加。
  • 脛骨内側ストレス症候群(MTSS)を有する女性は骨盤の傾きが大きい傾向。

過回外(低可動性)のメカニズム

過回外は足部の剛性が高すぎて、以下の問題を生じます。

① 衝撃吸収能力の低下

  • 着地時の衝撃を足部で吸収できず、上位の関節に負荷が集中。
  • 足底筋膜への反復的なストレスが増加。

日常での気づき方:

  • 硬い路面を走ると膝が痛くなりやすい。
  • 着地時の衝撃が強く感じられる。
  • 足裏(特に踵や土踏まず)が痛くなりやすい。

② 適応能力の低下

  • 地面の凹凸への適応が不十分。
  • 接地時の圧力が特定部位に集中。

誤解の修正:
「回外足は安定性が高い」という理解は誤りです。低可動性は衝撃吸収能力の低下を招き、足底筋膜炎などのリスクを高めます。

チェックポイント:

  • 過回内:代償的筋活動増加 → 筋疲労・脛骨内側ストレス症候群
  • 過回外:衝撃吸収能力低下 → 足底筋膜炎
  • 運動連鎖を考慮し、骨盤・股関節も評価。

特定障害との関連:脛骨内側ストレス症候群と足底筋膜炎

足部アライメント異常が特にどの障害と強く関連するか、具体的なリスク因子を明確化します。

脛骨内側ストレス症候群(シンスプリント)

内側脛骨ストレス症候群(Medial Tibial Stress Syndrome: MTSS)は過回内と強く関連し、初心者およびレクリエーションランナーにおいて主要な危険因子は内在的要因です。発生率は9.4%で、平均回復期間は約70~72日と長期にわたります。

▼ MTSSの主要リスク因子

リスク因子 説明
舟状骨落下 回内の指標
高い骨盤傾斜 Pelvic Drop
股関節内旋のピーク 運動連鎖の影響

足底筋膜炎(Plantar Fasciitis: PF)

前向き研究では、足関節の最大外転角度の減少(走行中のつま先の外向き角度が小さいこと)が、足底筋膜炎の発症リスク増加と関連することが示されています。

▼ 足底筋膜炎のリスク・保護因子

因子 内容 リスク
足関節内転角度の減少 トーアウト不足 リスク増加
最大足首外転角度が大きい 適度なトーアウト 保護的
週40km以上の走行距離 週6~20kmと比較 約6倍

週当たり40km以上走るランナーは、週6~20km走るランナーと比較して、足底筋膜炎を発症するリスクが約6倍高いことが確認されています。


チェックポイント:

  • 脛骨内側ストレス症候群:過回内・骨盤傾斜・股関節内旋の評価が重要
  • 足底筋膜炎:トーアウト角度・週40km超の走行距離に注意
  • 根本的原因が修正されない限り再発リスクは高い

歩容再訓練(ゲイトリトレーニング):エビデンスに基づく5つの手法

最も効果的とされる歩容再訓練の具体的方法と、その効果量を示します。

歩容再訓練は、運動学習の原理に基づき、ランナー自身の運動パターンを能動的に修正する、低コストで依存性のない有望な介入方法です。15研究295名のメタ解析により、足部回内を有意に改善することが確認されています。

1. トゥイン走(足部進行角変更)

方法:
ランナーに「つま先をやや内側に向けて」走るよう指導します。

効果:

  • 後足部の最大外反(回内)が減少する

2. 圧力中心(Center of Pressure: COP)の外側化(COPシフト)

方法:
ランニング中、着地時に「足の小指側の付け根あたり」を意識して地面を感じます。

具体的なステップ:

  1. まず歩きながら、足の外側(小指側)に体重を乗せる感覚を確認。
  2. ゆっくりとジョギングを始め、着地のたびに「外側から接地」を意識。
  3. 鏡の前や動画撮影でフォームを確認(リアルタイムフィードバック)。
  4. 慣れてきたら通常のペースで、10分程度継続。

効果:

  • 後足部の最大外反を約3.3°減少
  • 距骨下関節の回内も減少

3. ケイデンス(ピッチ)増加

方法:
現在のケイデンス(ピッチ)より5~10%増加させます。

効果:

  • 後足部外反が軽度減少

4. フォアフット着地への移行

方法:
ランナーにフォアフットストライク(前足部着地)を習得させるトレーニングを行います。

効果:

  • 動的な足部アーチの高さを増加

5. 後方歩行トレーニング

方法:
後ろ向きに歩く・走るトレーニングを取り入れます。

効果:

  • 扁平足傾向のある人において足部姿勢指数(FPI)を改善

▼ 歩容再訓練手法の効果比較

手法 効果量 実施難易度
COPの外側化 約3.3°減少(最大)
トゥイン走 約2.1°減少 低(簡便)
ケイデンス増加 軽度減少
フォアフット着地 アーチ高さ増加 高(段階的移行必要)
後方歩行 FPI改善

誤解の修正:
「装具がないと改善できない」という理解は誤りです。歩容再訓練は装具などの外部サポートに比べて、容易に実施でき、低コストで優れた代替手段となります。

チェックポイント:

  • 圧力中心の外側化が最も効果量大(約3.3°減少)
  • トーイン走は簡便で実施しやすい
  • リアルタイムフィードバック(鏡・動画・圧力センサー)の活用が有効

装具療法の適応判断:二重密度構造の効果と限界

どのような場合に装具が有効か、選択基準と効果を明確化します。

二重密度足底装具の効果

二重密度構造の足底装具(Foot Orthoses: FOs)は、過剰な回内を制御するために用いられる代表的な受動的アプローチです。8週間の装着による効果が確認されています。

バイオメカニクス的改善:

  • 垂直地面反力のピークを低下
  • 後方・制動・垂直の各ピークまでの時間が短縮

筋活動の変化:
回内足・中間足の両群で、ローディングフェーズ中の以下の筋活動が低下しました。

▼ 装具装着による筋活動の変化

筋群 変化
腓腹筋内側頭 活動低下
内側広筋 活動低下

これは、装具が受動的な支持を提供することで、これらの筋への神経筋的な要求が低減したことを示しています。

適応基準

▼ 装具療法の適応判断

状況 推奨
重度回内(NDT>10mm、FPI>+6) 装具療法検討
急性症状期で即時的負荷軽減が必要 装具療法推奨
重度回内+急性症状期 歩容再訓練との併用
軽度回内(中等度回内は保護的) 過度な矯正は不要

限界と注意点

装具療法の限界:

  • 受動的サポートであり、運動パターンの根本的変化は期待できない。
  • 依存性のリスク。
  • 個別化設計が必要(一律の装具は効果が限定的)。

誤解の修正:
「装具は常に必要」という理解は誤りです。装具は即時的負荷軽減には有効ですが、長期的には歩容再訓練による能動的な運動パターン変更が根本的解決となります。

判断材料:

  • 第一選択:歩容再訓練(低コスト、依存性なし、持続的効果)
  • 併用:重度回内+急性症状期 → 装具で即時負荷軽減しながらリトレーニング
  • 8週間装着後に効果を再評価

負荷管理の具体的基準:週40kmルールと距離増加率

走行距離の具体的な安全ライン・増加ペースを示します。

週40kmルール

週当たり40km以上走るランナーは、週6~20km走るランナーと比較して、足底筋膜炎を発症するリスクが約6倍高いことが確認されています。

▼ 週間走行距離とリスク管理

週間走行距離 足底筋膜炎リスク 推奨
6~20km 基準 安全範囲
40km以下 低リスク 推奨範囲
40km超 約6倍 慎重な管理必要

ただし、現実には週40km以上走るランナーも多いため、この閾値は安全性と効果のバランスを判断する重要な目安となります。週40km超えの場合は、足部アライメントや過去の傷害歴を含め、より慎重な管理が必要です。

距離増加率の管理

外在的要因として、週当たりの走行距離の過度な増加(30%超)が脛骨内側ストレス症候群の発生率増加と関連していました。

段階的プログラム設計:

  • 週ごとの走行距離増加は10%以内に抑える(10%ルール)。
  • 急激な増加は過使用性障害の典型的な引き金。
  • 大会直前の急激な距離増加は避け、段階的な負荷増加を基本とする。

心理的要因への対処

▼ 心理的要因とランニング障害リスク

心理的要因 リスク変化
強迫的熱中(Obsessive Passion:OP) 関連が示唆される
完璧主義的懸念 関連が示唆される
ランニングスケジュールに従うこと リスク低減と関連

具体的対応:

  • 達成可能で現実的な目標設定
  • ランニング以外の活動に関与
  • 必要に応じてカウンセリングの活用

チェックポイント:

  • 週40km超 → 足底筋膜炎リスク約6倍
  • 週30%超増加 → 脛骨内側ストレス症候群増加
  • 過去の受傷歴あり → リスク約2.9倍
  • 心理的要因も傷害リスクに影響

統合的評価フロー:静的評価→動的評価→介入→再評価

足部アライメント評価から介入、再評価までの実践的なフローを体系的に整理します。

推奨される評価フロー

足部アライメントの評価は、単一時点の静的評価では不十分です。以下の4段階での評価が推奨されます。

▼ 足部アライメント評価の4段階フロー

段階 評価内容 目的
① ランニング前:静的評価 NDT・FPI 立位での構造的特徴を把握、ベースライン判定
② ランニング中:動的評価 動画分析・フォースプレート 実際の走行中の足部の動きを観察
③ ランニング45分後:疲労後評価 FPI再測定 内在性足部筋疲労による変化を捉える
④ ランニング終了後:総合評価 上記3点を統合 個別化された介入方針を決定

介入の優先順位

足部アライメント異常に対する介入は、以下の優先順位で検討することが推奨されます。

第一選択:歩容再訓練(ゲイトリトレーニング)

  • トゥイン走・COPシフト・ケイデンス増加等
  • 低コスト、依存性なし、持続的効果が期待できる
  • 運動パターンの根本的変更を目指す

第二選択:装具療法

  • 適応:高度回内(NDT>10mm、FPI>+6)かつ急性期疼痛管理が必要な場合のみ。
  • 即時的負荷軽減には有効だが、長期依存は避ける。
  • 歩容再訓練との併用が望ましい。

補助的介入:負荷管理・心理的サポート

  • 週40kmルール・10%ルールの遵守
  • 強迫的熱中や完璧主義的懸念への対処
  • 計画的なトレーニングスケジュールの作成

再評価のタイミング

介入効果の判定と調整は、以下のタイミングで実施することが推奨されます。

▼ 介入効果の再評価スケジュール

時期 評価内容
8週間後に効果判定 装具療法:バイオメカニクス的改善を確認
歩容再訓練:運動パターンの定着度を評価
必要に応じて介入内容を調整 効果不十分:別の手法への変更または併用
効果良好:段階的に介入強度を減らし自立を促す

チェックポイント:

  • 静的・動的・疲労後の3点評価で変化を捉える。
  • 歩容再訓練を優先し、装具は補助的に使用。
  • 8週間ごとの再評価で介入を最適化。

優先行動の提示

本記事で整理した評価と介入から、今週取り組むべき優先行動を3点に絞ります。

1. 舟状骨落下テストで自分の足部タイプを確認

  • 座位と立位での舟状骨の高さの差を測定(5分)
  • 10mm以上なら過回内、4mm未満なら過回外として次のステップへ
  • 基準:NDT 10mm以上で介入検討、FPI +6超で高度回内

2. トゥイン走(足部進行角変更)を週3回・10分ずつ試す

  • つま先をやや内側に向けて走る練習(週3回・各10分)
  • 効果:後足部最大外反(回内)が減少
  • 過回内傾向がある場合に特に有効(最も簡便で低コストの歩容再訓練)

3. 週間走行距離を記録し、40km以下・増加率10%以内を確認

  • 今週の走行距離を記録(5分)
  • 週40km超で足底筋膜炎リスク約6倍、週30%超増加で脛骨内側ストレス症候群増加
  • 過去の受傷歴がある場合はさらに慎重に(リスク約2.9倍)

*これら3つの行動は、足部アライメント評価と最小限の介入の土台です。8週間後に再評価を行い、改善度合いに応じて次のフェーズへ進んでください。


Q&A(FAQ)── よくある疑問と臨床判断のヒント

Q1. 扁平足や回内足があるのですが、矯正が必要ですか?

A1. いいえ、軽度〜中等度の回内は矯正不要と考えられています。

中等度回内群が最も低い傷害率を示しており、保護的因子として働く可能性があります。静的に扁平足でも、走行中の回内が適切であれば問題ないとされています。

一方、舟状骨落下テストで10mm以上、またはFPIで+6を超えるような高度回内は介入の検討対象となります。

静的評価だけで判断せず、走行中の動的変化と45分後の疲労後評価も併せて実施することが推奨されます。動的評価(走行中の足部の動き)が重要です。


Q2. 高度回内の場合、すぐにインソールが必要ですか?

A2. 必ずしもそうではなく、第一選択として歩容再訓練(ゲイトリトレーニング)が推奨されます。

装具(インソール)は重度回内や急性症状期の即時的負荷軽減に有効ですが、長期的には歩容再訓練による運動パターンの変更が根本的解決につながる可能性があります。

装具療法は8週間の装着後にバイオメカニクス的改善(地面反力低下、筋活動減少)が確認されていますが、8週間後に効果を再評価し、依存性に注意することが推奨されます。


Q3. ランニング中に足が痛くなるのは、インソールが合っていないからですか?

A3. その可能性はありますが、他の要因も考慮すべきです。

インソールが合っていない場合、過度な矯正により衝撃吸収が阻害されている可能性などがあります。

また、歩行用インソールをランニングで使用していないか確認してください。歩行とランニングでは足部の動きが異なるため、ランニング専用のインソールが推奨されます。

インソールの適合性だけでなく、負荷管理など総合的な評価が重要です。


Q4. 過回外(回外足)の場合、どのような対策が有効ですか?

A4. 衝撃吸収能力を補うアプローチが推奨されます。

過回外は低可動性で衝撃吸収が低下し、足底筋膜炎発症リスクを約6倍増大させる可能性があります。保護因子として適度なトゥアウト(つま先外向き)の保持が有望とされています。

また、クッション性の高いシューズの選択も検討してください。


まとめ:静的と動的を統合した個別化アプローチの重要性

足部アライメント(回内・回外)は、ランニング障害の重要なリスク因子ですが、以下の点を理解することが臨床的に重要です。

重要ポイント

  1. 中等度回内は保護的因子であり、過矯正は避けるべき
  2. 静的評価(NDT・FPI)だけでなく、動的評価(走行中・45分後)を統合
  3. 歩容再訓練を第一選択とし、装具は重度回内・急性期のみ検討
  4. 週40km以上走る場合は、段階的距離増加・休息日確保が必須
  5. 心理的要因(強迫的熱中・完璧主義)もリスク因子として考慮
  6. 8週間後の再評価により、介入内容を調整

臨床実践への含意

  • 「扁平足=悪い」「ハイアーチ=悪い」という単純な判断は避ける
  • 静的と動的、疲労前後の変化を統合的に評価する
  • 個々のランナーの動きと症状に基づいた個別化介入を行う

noteの紹介

note版では、今回の内容を「どう考えるかの判断のヒント」として整理しています。
→note記事リンク:ランニング障害|動的アライメント編③「足部アライメント(回内・回外)」過回内・過回外のリスク判断(過矯正のリスクも整理)

* note=考え方の土台 → WP=確認の手順(実務編)として順に読むとスムーズです。
* WordPressは具体的な数値・判定基準を、noteは思考の枠組みを重視しています。


免責

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療の代替ではありません。
内容は筆者個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。


プロフィール

飯村 剛史(Dr.イイムラ)
医学博士/形成外科専門医
足のクリニック表参道 勤務医/ランニング外来担当
日本医科大学付属病院 非常勤講師

外反母趾などの足趾変形手術、足底筋膜炎、扁平足、ランニング障害など、足・下肢の診療に10年以上携わってきました。
臨床経験と2020年以降の医学エビデンスをもとに、”正確で再現性のある足・下肢の知識”をお届けします。

→各SNS・noteはこちら:lit.link/driimura


参考文献(一般化)

本記事は、2020年以降に発表された「ランニング障害と足部アライメント(回内・回外)」に関する研究知見(システマティックレビュー・メタアナリシス/前向きコホート研究/準実験的研究/横断研究等)を統合し、臨床的解釈として一般向けに再構成したものです。本文は作成時点(2026年1月)までの知見を中心に整理しています。

  • 足部回内を対象とした歩容再訓練(ゲイトリトレーニング)の有効性を検証したシステマティックレビューおよびメタアナリシス
  • レクリエーショナルランナーにおける足部アライメント異常(回内足・回外足)と将来のランニング関連傷害発生リスクを調査した大規模前向きコホート研究
  • 週当たり走行距離と足底筋膜炎発症リスク、および足関節外転角度との関連を調査した前向きコホート研究
  • 初心者およびレクリエーションランナーにおける内側脛骨ストレス症候群(MTSS)のリスク因子を統合したシステマティックレビュー
  • 健康なレクリエーションランナーを対象に短時間ランニング中の足部回内傾向の経時的変化を評価した準実験的縦断研究
  • ランニング関連筋骨格系損傷全体の疫学的発生率および解剖学的分布を調査したシステマティックレビュー
  • 回内足・中間足・回外足における静的および動的姿勢安定性(バランス能力)の違いを比較した横断研究
  • 二重密度構造足部装具(フットオーソティクス)が回内足ランナーの地面反力および下肢筋活動に及ぼす影響を検証した準実験的比較研究
  • 中等度足部回内が保護的因子となり得ることを示した大規模前向きコホート研究
  • 二重密度足底装具の短期的バイオメカニクス効果を検証した高品質ランダム化比較試験(RCT)
  • 足部アライメント(回内・回外)が動的バランス機能に与える影響を評価した横断研究

個々の論文名や著者名は割愛し、研究デザインの傾向と臨床判断に役立つ論点として一般化して示しました。


コメント

タイトルとURLをコピーしました